『拝み屋異聞 田舎怪異百物語』書評・ブックレビュー※ネタバレあり
こんにちは!あいのんです。
今回は『いなかい』こと『拝み屋異聞 田舎怪異百物語』の読者感想文を書こうと思います!
いなかいとは
拝み屋異聞シリーズ第2弾!
とある田舎の古民家で実際に行われた怪談会。
参加者たちによって語られた怪奇譚の数々と、予想外の結末とは?!
何とも不気味で、どこか不思議で、そして少し懐かしい。
田舎ならではの恐怖を100話収録。
あなたはまだ、本当の田舎の怖さを知らない――。(内容紹介より)
ラインナップ
真夏の余興/どっきり/鳥居/高い高い/お面/思い出したこと/出るコンビニ/ポスター/オフの頃/老人たち/ぴちとんぴちとん/怪至る/雨の墓地にて/人喰い婆/手鞠歌/戻し稲荷/石嵐
/それはある/エアバッグ/イナゴ捕り/天の眼/放水/小さき者たち/熱血キッド/肥溜め/神隠し/出続ける/底なし/ヒマワリ畑/夜道にて/田舎道の怪/まさに例のあれ、再び/これぞまさしく/貴重な幽霊/八月のイカロス/山坊主/それを楽しみに/迷い過ぎ/樹々の先/お礼参り/まむし酒/蛇憑き/再度の試み/野球チーム/巨山/歩き回る/人形の夢/長持ち/いただきました/乱れ舞い/その結果/秘密の宴/銅鑼打ち/神の子/ポコポコスナック/すぐに潰れた/バカ息子/お盆の怪/先触れ/延々引き/無自覚の罰当たり/確信犯の罰当たり/最低最悪の罰当たり/見た目だけ/量産食堂/確かめに/蚊帳/げろキャン△/飛び込んでくる/謎踊り/ノリがいい/返すから/そっちなの!/成就/ヒカル/三度目の催し/壊れっぺ!/渓谷温泉/苦い顔/火車/狛犬/辻斬り/おろぬき山/笑い声/べべるさばあ/友達の家/イグネ屋敷/潰し目/追憶/去られし家/巨額の家/誰なのか/待っていた/長くて怖いものなんです/再開/不明と矛盾/禁忌を語る/原因/真相/お祝いの日
印象に残ったお話※以下ネタバレあり
ぴちとんぴちとん
林間学校に来ていた中学生たちのグループ。森の中に三角屋根の作業場らしき廃墟を見つけます。
みんなで探検しようということになり、中へ入ると不思議な音が聞こえてきます。
不思議に思いながら奥の部屋のドアを開けると、ぼろぼろの事務服を着た女が縄跳びをしていました。
驚いた一行が逃げようとすると、女はばたりと倒れます。恐々よく見てみると、その女はマネキン人形でした。
なんとも不思議なお話。薄暗い廃墟で縄跳びをするマネキンを鮮明に想像してしまいました。
後日談もありますが、これまた不思議。人形の姿を鮮明に想像したことで頭に残りやすく、かなり印象深いお話でした。
げろキャン△
ゆるキャンの影響でキャンプをすることになった男性三人組のお話。
親類の家の近くの空き地で楽しんでいるとモジャモジャ頭に無精ひげ、一升瓶を持った男が話しかけてきました。
酔っぱらった様子の男は、自分も仲間に入れてくれと言います。
「仲間内でのんびりしたいから」「すごく酔ってるみたいだから無理ですよ」と丁重に断るも、おじさんは「酔っ払ってない!」と怒り、それを証明するかのように焚き火の前で反復横跳びをし始めます。
壊れたバネ人形のごとく跳躍する男の動きは前衛的であった、と書かれていた一文で想像してちょっと笑っちゃいました。笑
(前衛的な動きを絵で上手く表現出来ませんでしたw)
おじさんは直後にリバースして焚き火の火を消してしまいます。流石に起こった面々は口々に文句を言いますが返事はなく、おじさんは消えてしまいました。
不思議でちょっと面白いお話でした。ゆるキャンに影響されて、という物語のきっかけになる部分にリアリティがあって、なんだか親近感が持てる話でした。
壊れっぺ!
こちらも人形のお話です。ある家の小学生の姉妹の元に、フリーマーケットで買った金髪のお人形がやってきました。
二人はこのお人形を取り合ってケンカをしてしまいます。
両足と両腕を持って互いに引っ張り合っていると、ドスの効いた男の声で「壊れっぺぇ!」という声が二人の耳をつんざきました。
人形を見ると凄まじい顔で睨んでいます。
なんで男の人の声?!しかも訛ってる?!
怖さよりもギャップが面白くて、ちょっと笑ってしまいました。
きっと本人(人形)は壊されたくなくて、必死だったんでしょうね。笑
長くて怖いものなんです
郊外に立つ住宅地に引っ越してきた一家のお話。
その住宅地は何故か空き家が多く、近くのコンビニも潰れていたが広さと安さに惹かれて引っ越しを決めた。
四歳の娘が、引っ越してから2週間経つと夜中にうなされながら、大泣きするようになります。
「違います!違います!あたしは違います!こないで!」
と手足をばたつかせる娘は、正気に戻ると何も覚えていません。
「長くて怖いものなんです!」と繰り返し日に日にやつれ、両親の体調も崩れ始めます。
ある日、暴れ方が尋常ではなく救急車を呼ぶことに。
外へ様子を見に玄関を出ると、無数の女の生首が滑るような動きで横切っていきます。
首は全て、電信柱のような太い蛇の鱗が付いた物体に等間隔に生えています。
これって…エボリューションして目覚めたシロちゃんじゃないの~?!と思わざるを得ませんでした。
エボリューションしたシロちゃんとは『拝み屋怪談 壊れた母様の家〈陽〉』に出てくる恐ろしい怪異です。
空き家が多いことや、コンビニが潰れていたことも辻褄が合います。
今一度読み返してみましたが、デコレーションの過程で白い女の顔を背中に何本も刺していたりと、見た目の描写がそっくりなので恐らく間違いないと思います!
同じ怪異が別の角度から登場するというのも、郷内先生が拝み屋として仕事をしているからこそですね。
禁忌を語る〜お祝いの日
本作の中核となる怪異の原因を追究・解決するお話たちです。
郷内先生は、なかなか姿を現さない怪異を出現させるために、あの『人形と花嫁にまつわる話』を語ることになります。
※人形と花嫁にまつわる話とは『拝み屋郷内 花嫁の家』で書き起こされた曰く付きの話です。公の場で語ろうとしても常に邪魔が入り最後まで語る事が出来ず、文章にまとめるのもかなりの苦労されたとか。
ちなみに今現在、文庫版が絶版になりプレミア化されていて、Amazonで数万円で売られているという色んな意味で怖い本です。
まさか、ここでもあの話が登場するのか~!!
という思いと、最後まで語れるのか?!何が起こるのか?!
と、いうハラハラする臨場感がとても良かったです。
怪異の正体は、お人形でした。
雪江と名付けられた人形は、ある夫婦から自分の子供のように可愛がって貰ううちに、自分が人間であると思い込んでしまいます。
誰もいない暗い家で隠すように仕舞われていた、雪江ちゃん。
何だか可哀想でしたが、最後は「良かったねぇ」と思える気持ちのいい解決の仕方だったので読後感も爽やかでした。
全体を通しての感想
1ページにも満たない短い話もあれば、続いているお話もあったりで読みやすかったです。
まとまった時間が取りにくい人や、通勤・通学に読むのにも適していると思います。
怖い話もあれば不思議なお話もあり、バリエーションにも富んでいました。
個人的に人形が出てくるお話が好きで、人形の話もいくつかあったのでそれも嬉しかったです。
田舎を舞台に起こる怪異は、怖いだけではなくどこか親近感のあるものでもありました。
そういえば、昔自分も田舎でこんなことがあったなぁ。とか、あの人どうしてるかなぁ、と田舎に思いを馳せる人も多いと思います。
怪談を通して集まった仲間が同じ感情を共有することが好きだから怪談が好きなのかも知れない、という郷内先生の想いが書かれているのも良かったです。
怖いだけではない、一味も二味も楽しめる魅力のある一冊でした。